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レポート:ワークショップ「オーギュスト・コントの2つの顔 メアリー・ピッカリング『オーギュスト・コント伝 ― 人と思想』を読む」

はじめに


ワークショップ「オーギュスト・コントの2つの顔 メアリー・ピッカリングオーギュスト・コント伝 ―人と思想』を読む」は法政大学市ヶ谷キャンパスポアソナードタワー25階C会議室にて、フランス語と英語によって行われた。20世紀前半に活躍していた作家・ジャーナリストだったガストン・ド・パヴロフスキー(Gaston de Pawlowski)が執筆した博士論文でコントの社会学を批判しつつも、いわゆる「科学の限界」を引き受けていたので、僕はコントの哲学の全体像について関心があっり、このコロックに参加する運びとなった。諸事情あってコロックの終わりまでいることが叶わなかったが、聴取した発表の様子とレジュメの内容について簡潔にレポートしたい。

各発表


平井正人氏(東京大学・JSPSフェロー)の発表 « Similitude et Succession » では、次のようなことが発表された。一般的にコントの法則概念はヒュームの法則の定義である、継起と類似から借りてこられているとされている。しかし、ピッカンリグが指摘しているように、この点について文献学的な確証が持てない。平井氏はその点を精査し、コントが所蔵しているヒュームのフランス語翻訳を引き合いに出す。ヒュームの法則概念で類似は可能性を論じるものだったのに対して、コントは明らかにゆるぎない確信(certitude)を論じるためにこの語を用いていた。ところで、その議論の足がかりとして、平井氏はコントの実証哲学では、法則概念がブランヴィル(Henri-Marie Ducrotay de Blainville)の動的/静的(dynamique/statique)に由来しているという考えを示していたのが特に興味深かかった。ディスカッションの場面では、ヒュームとの関係についての事実確認から始まり、ヒュームの動物から直観を引き出すことについてのコントとの関係などの議論が交わされた。

次に、村松正隆氏(北海道大学・准教授)の発表 "Influence of Ideologists on Auguste Comte" では、冒頭で発表準備期間が極めて短かったことがエクスキューズされたものの、かえって多方面から質問がなされる生産性の高い発表となった。その発表の内容は次のようなものだった。19世紀フランス哲学の常識として、コントがイデオロジストたちに反対して、例えば、過度な還元主義的な態度としてその形而上学を批判していることが知られている。その一方で、村松は「共感」(sympathy)というキーワードを提示することで、コント、Destutte de Tracy、Cabanis、ルソーをひとつの枠組みに位置付ける試みた。質疑では、内容について補足的な意見が交わされ、活発な議論となった。「同情」に関する生物学史からの質問が投げられ、ピッカリング氏は最近の利他性に関する生物実験の紹介(おそらくこのマウス実験のことかと思われる)があり、『道徳感情論』も村松の議論の俎上にあったことから、ピッカリング氏はアダム・スミスにおけるエゴイズムと利他性に関する質問をした。

石渡崇文氏(法政大学)は、« Entre l’individu et la société : l’anthropologie d’ Auguste Comte »でビスヴァンガーのフロイト批判の内容からコントとフロイトのhumanitéに関する境界線を人類学に見出し、コントの人類(humanité)概念に別の角度から分析する論点を示していた。

メアリー・ピッカリング氏は、 « Consdération sur la ‘révolution’ dans la pensée d’Auguste Comte : La place des sciences dans son évolution intellectuelle » と題して、コントの知性の進化論をめぐる論考を発表した。人間の知性が発展するに従って、利他性が高まり、宗教が人間の知的活動を規定するようになるというコントの知性の考察を彼の境遇と著作を相互に踏まえることで、政治はコントにとって精神の問題だったことを明らかにしていた。

まとめ


全体的にボリュームのある議論があり、専門性が高かった。個人的な関心としては平井氏の発表におけるブランヴィルの重要性がコント以外の実証主義者たちにも知られていたのかどうかである。もしもそうであれば、パヴロフスキーが博士論文の中で哲学は「動的な解決(solution dynamique)」ができるとしていることの意味が新しく読み直せる可能性がある。